尊敬されなくなった男

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2017.09.28

 ご無沙汰しています。太郎君の奥様とお子様がウィルス性の風邪をひいたということで「無事な旦那である君が二人を看病してあげなくてどうするのか」と言う理由で、「早く帰ってあげなさい」と言ってあげた優しい男斉藤です。

 

 私には誰も言ってくれないんですけどね。

 

 ここ最近子供たちの行事ごとが多くなって全くブログを更新できずにいました。と言う事でお手柔らかにお願いいたします。

 

 信頼や信用は手に入れるまで大変時間のかかるものです。しかし無くすのはとても簡単。

 

 一瞬、チョットした事で今までは何だったのかと疑問を覚えるくらい簡単に無くすことが出来ます。

 

 私には高校の頃から親しくしている家族ぐるみの友達がいます。

 

 その友達には二人の娘がいて、昔から私にとてもなついてくれていて、特に下の子(妹、現在15歳)は自分で言うのも何ですが大変信頼してくれていました。

 

 両親に聞けない事や、社会に対しての疑問、初恋の相手など色々な事を相談して来てくれて、その都度私の出した答えや話に対して「ヒロミ君って本当に何でも知ってるんだね。」と尊敬のまなざしをくれていました。

 

 昨年、色々頑張ったご褒美にストレートパーマをかけてあげた所、その尊敬のメーターがマックスを超えたらしく「スーパーカリスマ物知り美容師」として、殿堂入りする勢いで認定してくれたそうです。

 

 先日その家族とたこ焼きパーティーをしました。

 

 たこ焼きが終盤に差し掛かった時、友人が唐突にこう言いました。

 

 「そうや。アヒージョしよか。」

 

 たこ焼き機を利用して最近有名になって来たオシャレな感じのするイタリア風料理をしようとの提案でした。

 

 「おっいいねぇ」「わぁオシャレじゃん」

 

 友人と私の両妻も何だか賛成の様子。私も何となく提案に乗りました。

 

 友人の奥さんに持ってきてもらったオリーブオイルを使用後のタコ焼き器のくぼみ等を、十分に綺麗にしていないままにドクドクと入れ始める友人。

 

 私「おい。そんな並々と注いでええんか。」

 

 友「なんでぇ。これくらい入れな全部浸からへんやろ。」

 

 心配する私を他所に上機嫌な友人は、冷蔵庫の氷を作るかの如く瞬く間にタコ焼き器を油まみれにしてから、その穴に「早く目が出ろ柿の種」とポトンポトンとニンニクチップを入れ始めました。

 

 因みに友人のタコ焼き器ですが、結婚式の二次会の大抽選会で、景品として最初の方に用意されるようなチープな作りのタコ焼き器で、私だったら恥ずかしくて絶対に家に置いておかないタイプのモノでした。

 

 私「アヒージョってどれくらいの温度でやるんか知ってるんか。」

 

 友「知らん。ていうかこの機械温度調節出来ひんし。」

 

 私「唐辛子とかはないんか。確か入ってへんかったけ。」

 

 友「ええねんてヒロミ。これで絶対全然うまいねんて。」

 

 昔から口うるさい私を物ともせず、全ては心の決めたままにマイウェイを突っ走る友人。そうこうしているうちにタコやレバー、ウインナー等がドンドンと油風呂の中に投入されていきました。

 

これあかん奴や

 

 それを見ていた友人の奥さんも期待に胸を膨らませとても嬉しそうでした。

 

 この時、この光景を見ている大人4人のうち正しいアヒージョの作り方を理解している人は誰もいませんでした。

 

 私がアヒージョの作り方に疑問を抱いているのをみて、友人の子供で私を尊敬しているであろう子も「ヒロミ君の言う通りの方がええんちゃうかお父さん。」と心配そうにしていました。

 

 そして数分後、鉄板に変化が見え始めます。

 

 最初の犠牲者は斉藤家の娘でした。

 

 娘「アチッ」

 

 何か目に見えないものに攻撃された娘は、肘の部分をこすりながらのぞき込んでいたタコ焼き器から体を離し体制を整えました。

 

 友「大丈夫かしーちゃん。気をつけな跳ねる事もあるからな。」

 

 そう言いながらウィンナーをひっくり返そうと近づけた千枚通しを持つ友人の手を、野犬の唸り声のようにチチチと威嚇している油に若干の危険を感じる私。

 

 さすがにこのまま続けると良くない事が起こりそうで忠告はしたのですが、実の娘が自分より友人である私の言葉に耳を傾けようとしたのが気に入らなかったのか、友人も「お前はこのタコ焼き器を馬鹿にし過ぎてる」と益々引き下がらなくなり、ババンババンバンバン(風呂入ったかぁ)状態のタコをひっくり返していきました。

 

 ぱちん。

 

 弾ける音がすると同時にタコやニンニクが飛んできました。

 

 「うおっ。」

 

 その合図を待っていたかのように、鉄板の上の穴と言う穴が奴に続けとドンドン弾けだしました。

 

 ぱちん。ばちん。ばちーん。

 

 「うおっ。」「あひぃ。」

 

 胡坐(あぐら)をかいていた私達の皮膚に、容赦なく油と共に弾けまくり攻撃してくるお祭り状態の具材たち。

 

 たこ焼き気が置かれた透明のテーブルの上は、例えるならドンパッチを食べた口の中・・・いやハウス食品のアメリカンポップコーンパーティーのような状態でした。

 

 火ぃに近づぅけてっ。良っく振りまぁしょうっ。

 

 私「あっひぃ。」

 

 パチン。バチン。バキン。ドカン。

 

 友「ヒロミ、いや誰か電源止めてくれ・・・・ってあっちぃ。」

 

 友人の娘「ちょっとやばいってこれ。アカン退避せなアカン。あおちゃんコッチ来ぃや・・あっつぅ。」

 

 妻「きゃーあっあひぃっ。」

 

 阿鼻叫喚も甚だしい。

 

 何度か手を伸ばすものの、煮えたぎる油達の勢いはすさまじく、コンセントの元栓を抜きに行くという簡単な答えを導き出すのに時間がかかってしまいました。

 

 私の頭の中で踊りまくる、銀色の服を着た上目遣いの西田ひかるさんとは打って変わって、目の前で広がる野外フェスの後の観客席のような光景に少しの間、皆の時が止まりました。

 そらこうなるわな

 タコやウィンナーをしっかり水を切ってから投入したのかお前ら。

 

 そもそも食材を一通り茹でてないとそらそうなるのではないか。

 

 静寂の中、私の耳元に山科の神様が囁いてました。

 

 油が付いた腕の部分をこすりながら友人がクイックルを無言で取りに行き、与えられた処理アイテムを各自が黙って一枚ずつ手に取り、ギトギトになったリビングの床と透明のテーブルを静かにふき取る作業が始まりました。

 

 私は、この静寂を何とかして良い思い出に変えるため、流れを変える最高の言葉を探しました。

 

 私「なるほどな。」

 

 何事かと皆が私の方を振り向いてくれたのを横目で確認しながら、作業の手を止めることなく考え抜いた言葉を、皆に見える方の顔の部分だけどや顔にしてから口にしました。

 

 私「みんな油であひぃ、あひぃって叫んでたけど多分、こうやってアヒィジョが誕生したんやろな。

 

 はぁ。何それ。つまんねぇ。

 

 私の思惑とは裏腹な周囲の冷めた反応に、小声でつぶやく程度にしておいて良かったな、と後悔と恥辱の念と戦いながら油をとっていると友人の娘がこう言いました。

 

 友人の娘「うっわヒロミ君・・・ってつまんない大人やったんやね。なんか残念やわ。」

 

 こうして私は、友人の子との間に15年間少しずつ積み上げてきた、大切な、二度と手に入れられない何かを失いました。

 

 後日彼女に送った「この間の夜はありがとう」というラインの返信は未だにありません。

 

 皆様も子供との会話の中での発言には十分にお気を付けくださいね。

 

YaYaあの時代を忘れない

 

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