今日も一人芝居

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2024.12.27

 やましなス。斉藤の「斉」は刀にYの齊である男齊藤です。(二回目)

 

 先月のとある日、職人さんをされている30代後半の男性のお客様から言われました。

 

 この間仕事中に仲間内で美容室の話になったんスよ。美容室ってええよなぁっ癒しの時間やなぁって。

 聞いてたら他の連中みんな、美容室でシャンプーしてもらうときに若い女性スタッフさんの胸が顔の近くまで覆いかぶさって来て、その時にメッチャええ匂いがするのがタマらんって言ってたんスよ。

 みんな分かる、分かる、最高やなぁって。

 俺だけ全然話付いていけなくて。俺20年くらい何の匂いもせん、ようしゃべるオッサンに切ってもらってるって言うたら大爆笑されました。なんなんすかこの仕打ち。

 

 知らんがな、と突っ込みながらも一握りの哀れみを感じてしまった私は、それから1か月が過ぎた昨日その方が再来店されるタイミングに合わせて計画通り営業前に娘の部屋に忍び込みました。

 

 娘が使用している甘い香りのする香水を軽く左側の鎖骨のあたりに振りかけます。

 

 その方の来店時間は18時だったので本来なら直前でも良かったのですが、娘と万が一にでも部屋で鉢合わせてしまっては今まで築いて来た信頼関係が目減りしてしまう恐れがあった為でした。

 

 朝一、午後一の女性のお客様からは特段何も言われませんでした。 3人目のお客様がシャンプー中に鼻をクンクンと動かしていた(気がした)ので恐らく何かの異変を感じ取られていた事と思います。

 

 シャンプーやマッサージ。自分の身体で軽く汗を感じれる位代謝が良くなる動作を行う度に娘の香りが私の鼻を刺激し「万が一奴らにばれたらメッチャ馬鹿にされる」と常に背後から狙撃手に命を狙われているような奇妙な気配に怯えながら、仕事中妻の半径1m以内に近づかないよう接触を避け続けていました。

 

 ようやっと夕方、妻の仕事上がりの時間になりホッと一息。首元を締め付けていたシャツのボタンを一つ外せてややリラックスして本番に向かいました。

 

 試合開始。

 

 何事も無く時が流れて行きます。

 

 カット中、いつものようにたわいのないバカ話を双方から繰り出すだけでお目当ての言葉をきくことが出来ないまま本番であるシャンプーが始まりました。

 

 さあメインタイム。いつもより姿勢を正しグッと胸を張りながら気持ちでは地母神が乗り移っているかの如く、いつもより気持ち身体を近づけそれでいて失礼のない間合いを保ちます。母乳を飲ませるかのようにソフトに自然に優しく、顔は不気味になっても良いので笑顔に保ちこの日の為に習得したラッチオンシャンプーで勝負。出でよ私の中のエストロゲン。

 

 なんも反応ないやん。

 

 そしてシャンプーもあっけなく終わりそのまま仕上げまで終了。クロスを外し席を回してお会計になりました。

 

 そこで我慢できず「何か今日変わった匂いしませんでしたか」と尋ねたところ返って来た答え。

 

 いえ別に。というかこの間娘がコロナになって僕は症状なかったんすけどそれがうつったみたいで鼻が全くきかないんスよね。今日美容室なんかあったんスか。

 

 いえ何も無いス。

 

 受付で年末の挨拶を簡潔に済ませ、最後にお大事にとだけ伝えて彼の背中を見送り届けてからワイシャツと肌着を即座に剥ぎ取り、ばれないようドラム洗濯機の奥側へ抱いた自分と言う存在の虚しさと共に突っ込みました。

 

 人生ってそんなもんスよね。

 

 とりあえず次回来店時は事前準備としてシャツの胸のあたりにコンデンスミルクの粉でも擦り込んでみたいと思います。

 

 

 という事で今年一番の短文を書いてみました。書けてるかどうかは分かりませんが一応やれば出来るものなんスね。

 

 いつもお忙しい中くだらないブログを読んでいただいて本当にありがとうございます。今年も一年お世話になりました。簡単ではありますが皆様どうぞ良い御年をお迎えください。

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