吠えるルミエール

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2019.04.25

 やましなす皆様おならプゥ。

 

 いやぁ久しぶりにこの挨拶から始まると、何だか帰って来たぁって気がしますね。

 

 ちなみに「やましなす」という言葉の意味をお分かりになられない方はググってみて下さい。

 

 絶対に出てきませんから。

 

 と言う事で喉を傷めてうなり声かかすれ声しか出なくなっている男斉藤です。何かの呪いでしょうかウォッホン。

 

 突然話を始めますが、三条通に面したこの店には実に様々な所謂(いわゆる)「飛び込み」のお客様に今まで入店されて頂いてきました。

 

 お陰様で現在ではご予約を多く頂いており、当日の予約は申し訳ないのですがお断りする事が多くなりましたが、オープン当時はその飛び込みのお客様達に助けられてきました。

 

 その中でも余り嬉しくない、何らかのトラブルに発展するような方も多くいらっしゃいました。

 

 一度、酔っ払いのおっちゃんが背中に枯葉を沢山つけて来店された事がありました。

 

 タバコの火を貸してほしい、と言われたのですがライターが無いとお伝えすると「なんじゃそりゃ」と怒り出し「じゃあカットしてくれ」といって席にドーンと座られました。

 

 少し身体からアンモニアの匂いがしたので遠慮していただきたかったのですが、私が「失礼ですけどご料金がかかりますが宜しいですか」と尋ねると「おう持っとる持っとる」と言うので仕方が無く切らせて頂く事にしました。

 

 切ろうとした髪の毛と頭には、何かで殴られたのか大量の血がついてました。

 

 バリカンで5分刈にしてから料金をお伝えするとポケットからワンカップ大関を出して「はいこれ」と言って置いて帰ろうとされました。

 

 その後警察沙汰になったのは言うまでありません。

 

 その他にもオシッコまき散らし夫様。ミネラルウォーターだけ飲みにきた蔵様。宇宙人が襲ってくるから助けてくれおば様。フロントの試供品全部鷲づかみで持って帰る子様。花柄海パン男様。洗濯させろ中国人カップル様等、本当に数えきれないくらいの言葉は悪いですが「珍客」様がご来店された歴史がありました。

 

 そんな中、オーキニーでの珍客歴史の記録を更新されるであろう強烈な出来事が先日起こりました。

 

 新規でのご来店で、車椅子のご年配の女性のお客様を奥の個室でさせて頂いていた時の事です。

 

 心配でついて来られていたその方のお嬢様が待合椅子で待機されており、もうすぐ施術が完了するかどうかの時に玄関の扉がチャイムと共に開きました。

 

 いらっしゃいませとのぞき込むと、車椅子に乗った70過ぎ位のお爺さんと白い手袋をした執事のような格好の男性が入って来られていました。

 

 私は「ご苦労様です。もう終わりますのでもう少しだけお待ちください」と言って奥様を仕上げました。

 

 車椅子のおじいさんは「うぃー」と言って執事さんを玄関近くで待たせてソファーにどっしり座られました。

 

 奥様のお会計を済ませ、これからの髪の手入れ方法についてお話をしていると奥様は申し訳なさそうな表情で私にこう言われました。

 

 お客様「あっ。もう大丈夫ですよ次の方が待っていらっしゃるので私はこれで娘と帰ります。ありがとう。」

 

 お辞儀をしてお嬢様とお帰りになられる姿を見ながら、私はどうやら勘違いしていた事に気が付きました。

 

 車椅子のおじいさんと執事さんは車椅子の奥様のご主人で心配で見に来られたのかと思っていたのですが、全くの赤の他人だったのです。

 

 お見送りをしてから、次のご予約のお客様は長年ご来店いただいている女性の方で間違いないか確認してから言いました。

 

 私「すみませんお待たせしました何でしょうか。」

 

 するとおじいさんは両手をソファの後ろに大きく回し広げながら

 

 おじいさん「うん。いやぁ今音羽病院からここまで帰って来たんやけどなぁ。こうグルグル回って。ずっと回ってたんやわ。」

 

 はい。

 

 おじいさん「ほんでもって。タクシーなんや。お金払おうとしたんやどお金無かったんや。」

 

 はい。ん。

 

 白手袋の執事さんはどうやらタクシーの運転手さんらしい事が発覚。

 

 おじいさん「ほんでやな。ちょっと払っといてくれへん。1750円やった・・・か。」

 

 はい。ん。何。

 

 何の事だか理解できない私を心配そうに見つめるタクシーの運転手さん。しばらく沈黙が続いてから私が「あのごめんなさい。なぜでしょうか。」と聞き返すと、おじいさんは先程発した言葉と同じような内容の事を話し始めました。

 

 私「あの。失礼ですが私がタクシー代を払わないといけないと言う事でしょうか。ちょっと良く分からなくて・・・だとすると何故私が初対面のあなたにお金を出さないといけない義務があるのか分からないのですが・・・」

 

 思った事をそのまま聞き返してみると、心配そうな表情をしていた運転手さんが突然大声を出して割り込んできました。

 

 運転手「はぁ。何やそれ。おたくこの人の知り合いと違いますの。どうゆうこっちゃこら。」

 

 私「はい。なので義務と言うか立て替えて返して頂ける保障も何も・・・すみません意味が分からないです。」

 

 再びどういうこっちゃと大声を出してから運転手さんが続けて大声で怒りをあらわに話し出しました。

 

 運「えぇ。なんやアンタ。病院から乗って。御陵着いてからあっち行けこっち行け、て。グルグルさせてから長い事付き合わされて。金無い言うて。ここの美容室知り合いやからここで金借りるいうてやで。なんやアンタ。」

 

 どうやら執事さんの話を纏めると、恐らく音羽病院から御陵まで送らされかなりの時間乗車されたけど、無賃乗車だったらしく私の事を知り合いだからそこでお金を出して貰う約束で、先程のお客様が終わるまでずっと待たされていたみたいで、とにかく大変そうでした。

 

 運「ご主人もどう思う。知らん言うたはるやんかそんなんあるかアンタ。ええ。どういうこっちゃ。」

 

 何だかお気の毒ですが、薄情な私は大変そうな顔をしながら心の中で「いや知らんがな」と思っていましたし、それよりも次のお客様が来るまでに準備と後片付けをしないといけないので「外でやってくれ」と思ってました。

 

 ヒートアップする執事さんに対しておじいさんは「うん。うん。そうやなぁ。出してくれ言うてるけどなぁ。知らんからアカンか。」とマイペースを続け隣に置いてあるウォーターサーバーのコップを取ろうと手を伸ばし出しました。

 

 うぇお水飲むの嫌だなぁ。と思って見ていると、赤ら顔になった執事さんが急におじいさんの手を止めるように近づいて来て、掌でコップに伸びた手をバチンと弾いてからおじいさんのブルゾンの襟元をつかみ揺さぶり始めました。

 

 執「あほかあんたは。ワシの時間や給料どうしてくれるんや。返せんのかいなアアァ。ええ加減にせいよアンタ。」

 

 私もビックリして手を止めて慌ててかけよりましたがなだめに入る私にかまわず

 

 執「タクシーはなぁ慈善事業やないで。時間給で売上上げとんや。警察行く言うてもアンタどうせ生活保護もらっとんやろ。」

 

 おじい「うん。」

 

 執「はぁ。最初から払う気無いやんかアンタ。こんなバカな話あるか。今から警察行っても事情聴取してなんやかんやで今日の勤務時間殆ど無くなるやんか。ええ加減にせいよわし何か悪い事アンタにしたかぁ。」

 

 いやごもっとも。執事さんは全然悪くない。正論ですよ。

 

 が出来たら他所でやって頂きたいんですが。

 

 どうあれ相手はご老人で身体が不自由なのには変わりは無いので、襟元の力こもった手を放して貰い、何とか仲裁に入りウォーターサーバーのロックボタンをコッソリと入れときました。

 

 おじいさんはその後も悪びれた様子を一切見せず、払う払うと繰り返し呟きながら「すまんすまん」と火に油を注ぐような対応を撮り続け、私も執事さんの手を制止する手が痛くなる

 

 その後、執事さんは泣き寝入りやぁと怒鳴りながら私に○○タクシーの名刺を託して捨て台詞を吐いて店を出ていかれました。

 

 問題はその台詞。

 

 どうやら私はこのおじいさんの行く末を見守り、支払いを引き受けて○○タクシーに連絡をしないといけない事になったらしいです。

 

 いやそういうお土産いらんし。

 

 それからしばらくおじいさんの人生観の話を聞かされました。

 

 じい「この世とは世知辛いもの。ワシは生きる時代を間違えた。」

 

 途中で喉が渇いたらしく、先程飲めなかったウォーターサーバーに再び手を伸ばされましたが、そこは私の先読み攻撃の勝ち。押しども引けども水は出てきません。

 

 じい「兄ちゃん知ってるか。金って回りもんや。金にとらわれたらあかん。」

 

 私も出来るだけ我慢しながら聞いていたのですが、おじいさんと言えど流石にそこは犯罪者。盗人猛々しいとはこれ如何に、と言う事で

 

 私「あの。そろそろ次のお客様がご来店されるので仕事に戻りたいのですが。良かったら出て行ってくれませんか。申し訳ないですがハッキリ言うと迷惑です。」

 

 そういって無理やり車椅子に乗せて玄関扉を開けてお帰り頂きました。

 

 おじいさんは車椅子で三条通の横断歩道を何十台の車にクラクションを鳴らされながらゆっくりゆっくりと横断して渡り切り、その後向かい側の歩道をしばらくウロチョロされていました。

 

 その数十分後、「どうされたかな」と思い窓の外を見ていると明らかに横断歩道を渡った時よりも速いスピードを出している車椅子のおじいさんが遠くにいました。

 

 

 ディズニー映画の名作の一つに「美女と野獣」という作品があります。

 
美女と野獣

 その作品では冒頭、お城に住んでいる顔は男前だけど性格の悪い王子様の元に、独りの醜い老婆が宿を求めてやってくるのですが、王子さまは老婆を外見で判断して一晩の宿を断ってしまいます。

 

 すると老婆は美しい魔女の姿に変わり王子に対して手に持っていたバラを手渡し、王子を心と同じ容姿の醜い野獣に変えてしまいました。

 

最近よく画像パクってるなぁ

 

 ・・・・

 

 今思うと車椅子のおじいさんは実はそうだったのでは。

 

 もしかしたらバラの代わりにタクシーのレシートを使って私を試しに来たのでは無いか。

 

 そう言えば昨日ガストンみたいな人が来た気がするぞ。

 

 はっ。タクシー執事は実はルミエール。

 

 そうすると私は今、実は野獣。

 

 吠えたくなってきたぞ。愛をくれ愛を。

 

 と言う事で誰か真実の愛と接吻をよろしくお願いします。

 

 ガオー。

 

 ※美女と野獣のストーリーを知らない方何の事だか分からないと思います。あと途中から運転手→執事になってますすみません

 

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