何でも知ってる妻

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2018.11.17

 やましなす皆様。ハズキルーペを購入したにもかかわらず、未だにお尻で踏んで試すことを躊躇している根性無しの男斉藤です。

 

 ここ2~3カ月、本当に色々と八反バタバタして休みが一日も無かったのですが、先日久しぶりに休日のお昼間を家で過ごす事が出来ました。

 

 リビングでゆっくりと本を読んでいると天井である上の階(5階)から何かガタゴトと騒がしい音が聞こえてきました。

 

 気に留めないようにしていたのですが、余りにも長く続いていたので台所で晩御飯の支度をしている妻に聞いてみました。

 

 私「なあ。俺休みの時家にいないから知らんかったけど、上の階の人っていつもこんなバタバタ動いたはるんか。」

 

 妻は私の問いに対して、さも「妻の私がこのマンションの事で知らない事があるモノか」と言った誇らしげな顔を精一杯アピールしてため息一つついた後、こう言いました。

 

 妻「そうだよ。上の階のご夫婦メチャメチャ歩くの速いんだよ」

 

 歩くの速いって、そんなお歳のご夫婦だったけか。

 

 ・・・・上の階(5階)の人が引っ越してきたのは約3カ月前だったと思います。

 

 丁度私しかマンションに居なかった時、珍しくチャイムが鳴り大変物腰の低い上品な初老の奥様が「上の階に引っ越してきたのですがよろしくお願いいたします」と菓子折片手に挨拶に来てくださいました。

 

 姿勢はスゥっとされていましたが、パッと見た感じ私の母親よりはお歳が召されていた感じでした。

 

 私「嘘やん。こんな子供がバタバタ走るように昼間に歩くか普通。そんな人たちには見えんかったぞ。」

 

 怪しむ私に妻は「はぁ、アンタは何も知らないんだね」と言ったちびまる子ちゃんのような憐みの表情を見せながらこう言いました。

 

 妻「ヒロミは知らないと思うけど、私毎日早朝に散歩行ってるでしょ。その時にそのご夫婦とよく公園で会うんだよ。お二人とも凄く早歩きで鍛えながら歩いてるんだよ。」

 

 ああなるほどそうなのか。健康に気を使っていらっしゃるんだな。

 

 一瞬そうも思いましたが、ちょっと待てよ。

 

 私「いやいや。言うてもそれをリビングでやるか。ていうかそんな感じなら夜でも多少は音してるやろ。」

 

 そう言う私に更なる持論による畳み掛けを乗せてくる妻。

 

 妻「知らないと思うけど、お年寄りって耳が遠いんだよ。だから自分の足音が大きくてもあんまり気にならない・・っていうか分からない人が多いんだよ。」

 

 私「ほんまかいな。」

 

 妻「本当だよ。ヒロミは経験ないかも知れないけど私ひいお婆ちゃんとかお年寄りと一緒にずっと住んでたからわかるもん。」

 

 ほんまかいな。

 

 その後、気にしないように心掛けていたのですが、ずっと鳴りやまないドタドタという音にちょっと読書が出来ない気分になったので「ポケモンでも捕まえに行ってくるわ」と言って散歩に出ました。

 

 エレベーターが珍しく中々4階(斉藤家のある階)まで上がって来ませんでした。

 

 しばらくして上がってきてくれたエレベーターには人影はなく、代わりに3方のエレベーター室内の壁に何やら梱包材やら段ボールが巻かれていました。

 

 1階のホールに到着するとマンションの裏手に続く勝手扉が大きく開かれており、大きな荷物がホールにいくつか並んでいました。

 

 その勝手扉から青い作業着を着た若いお兄ちゃんが二人ほど、せせこましく段ボール箱を両手に抱えながら足早にエレベーターに向って小走りしていました。

 

 ちょっと気になる所があって何気なくエレベーターの行き先の階を見ていると、オレンジ色の数字が「5」の所で止まりました。

 

 外に出ると大きなトラックが止まっていました。

 

 トラックには「アーク」と書かれてありました。

 

 外に出てマンションを見上げると5階の廊下辺り、走る青い人影が一番奥の部屋、私の住処のちょうど上の階に当たる部分で消えて行くのが確認できました。

 

 私は妻に写真付きでラインを送りました。

 

 「上の階、引っ越し業者さん入ってる。」

 

 即座の既読から2分後。妻から言い訳の言葉は無く、どう思ったのか分からないムンクの叫びのようなスタンプだけが送られてきました。

 

 次、もし上の階のご夫婦に出会う事があったら、不思議がられるかも知れませんがしっかりと謝罪の言葉を伝えたいと思います。

 

 妻をお許しください。と。

 

 

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