いつの時代も次男はしらこい

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2020.04.17

 しらこい

関西弁 和語 解説
しらこい しらじらしい 白こい。なにしらこいこというてんねん。

 しらこいとは、関西圏の方言で白々しいという意味。徳島周辺ではずるいという意味で使うこともある。

 

 

 やましなす皆様。ついに全国に非常事態宣言が出されましたね。外出を控える人々の心が重くなるのを少しでも緩和させるべく立ち上がる山科発の不屈のファイターキン肉マンです。

 

 

 地方には方言と言うものがあります。

 

 京都で言うと「ほかす」(すてる)或いは「はんなり」(上品で華やか)等。妻に言わせれば「しばく」や「かしわ」と言う言葉も含め、何の意味なのかずっと理解できなかったそうです。

 

 今回はそんな関西(大阪かも)弁の一つである「しらこい」男の話。

 

 

 先日、来るべきハルマゲドンに向けてネットで冷凍庫(容量90リットル)を購入しました。

 

 あらかじめ二階の台所横の納戸の寸法を測り、入るか確認してからネットショッピング最安値のAmazonで購入しました。

 

 これで妻が外に買い物に出る、Kさん曰くの「銃弾飛び交う戦場に行く」回数が減るであろう。総てはそんな妻想いの心から始まったのです。

 

 で。先日の午前中に佐川のお兄ちゃんがお店に配送物を届けに来てくれました。

 

 店の玄関を出て見に行くと、私の予想をはるかに超えた大きさの段ボールがキャスターに積まれていました。

 

 出来る事ならお兄ちゃんにそのまま二階にあげて欲しかったのですが「自分で上げるので家の玄関扉前に置いといて」と格好つけて言ってしまいました。

 

 昼頃、営業中少し時間が空いたので土間に置いてあるソレを、試しにホール(廊下)に1人で上げてみました。

 

 数十センチ動かすだけで腰が抜けそうになり、人知れず廊下の壁と段ボールで指を挟み数十年ぶりに指フーフーする中年男がそこにいました。

 

 総重量を見ると70キロ。お兄ちゃんの心配顔の忠告を素直に聞いておけばよかったと早くも後悔しました。

 

 その後諦めて仕事をしていると、ふと妻が玄関の荷物を見たらしく、私に「えらいおっきいの来たね」と準備室で声をかけてくれました。

 

 私は何故か突然苦しくなり「あれ。ハァ。無理や。ハァハァ。1人で玄関まで上げたけど。ハァ。1人は。ハァハァ。あとで手伝って。ハァ。死ぬ。マジで。」と呼吸を乱して伝えました。

 

 妻は「ふーん。あとで一緒にあげればいいのね。」と冷静で的確な返事をしてくれました。

 

 因みにさっき冷凍庫を玄関にあげた時より既に30分経過していました。

 

 その後、お弁当を片付けにリビングに上がると中一の娘がテレビを見てくつろいでいました。

 

 その姿を見ると又息切れに襲われ「しーちゃん。あれ見た。ハァ。下の冷凍庫。ハァ。良かったら夜一緒に」と絶え絶えに伝えようとしました。

 

 「ウン聞いた。一緒に手伝えばいいんやろ。分かった了解」

 

 娘は私の口から発せられる言葉を最後まで聞かずに、スマフォを片手に自分の部屋に戻っていきました。

 

 赤くなってしまった親指の付け根をちょっとだけでも見て欲しかった私は、もうすっかり痛くないはずである指を口でフーフーしながら食洗器に洗剤を放りこみました。

 

 その夜、営業が終わってから二階へ上がとうとすると、気配を感じた妻が降りて来てくれ「しーちゃーん(娘)。お父さん終わったよー。降りて来てー。」と娘に声をかけてくれました。

 

 妻「で。どうすればいい。」

 

 しばらくして娘も降りて来てくれ、私の案を伝えました。

 

 私「ええか。お父さんコレかなり大変やってんココまで1人で持ってくるだけでもや。」

 

 私の案は階段の誘導係に私が一人で先導して持ち、下側を妻と娘で持ち上げてもらうというものでした。

 

 私「お父さん上側で1人で持つから女性軍二人で下から支えてくれ。結構大変やしどっちか辛くなったらお父さんに言うてくれや。お父さんその分踏ん張るし。」

 

 見せようとした、赤くなっていたはずの親指の付け根は既に肌色に戻っていました。

 

 私「危なくなったら自分の事大事にして絶対に怪我だけはせんといてや。お父さんは大丈夫やし。」

 

 ゆっくりな。ゆっくりな。と念を押しながら二人が怪我をしてしまった場合、どうやって手を離して途中で休憩するかを説明しようとすると

 

 娘「うんわかった。わかったって。」

 

 妻「はーい。じゃあ行くよしーちゃん。せーの。」

 

 と私の事をほっておいてサッサと持ち上げ動作に入る女性二人。

 

 突然の主導権変更に焦った私は、二人をケガさせないよう細心の注意を払いながら一歩ずつ確実に階段を昇りました。

 

 「下二人大丈夫か。ゆっくりやで。ハァハァ。はいもう一段。せーの。」

 

 無言を続ける見えない女性軍が心配。

 

 「おっしゃ。3分の1来た。ハァハァ。行けるか。休むか。」

 

 返事は聞こえないけど私の動きについて来ているのは確か。

 

 「カーブ来た。カーブ来たぞ。ハァハァ。大丈夫か。指ぃ。見えへんし気をつけろよ。」

 

 階段の手すりに肘を挟んでしまい激痛が。しかし二人を不安にさせてはいけない。

 

 「ちょっと。ハァハァ。大丈夫か。ていうかちょっと休憩するぞ。下ろすぞ。」

 

 カーブの途中で二人の身を案じ休憩を挟み、その後同じような言葉を何度も発しながら何とか階段を上がり切りました。

 

 私の呼吸音だけがゼェゼェと聞こえるリビングへ続く廊下で、息子が私の横に来て一緒に運ぼうとしてくれたのでそれを制し、背中からゆっくり納戸に入りました。

 

 泣きそうに心配してくれている息子の顔が印象的でした。

 

 「ゆっくりおろしてや。ゆっくり。指挟むなよ。せーの。」

 

 そそくさと手際よく冷凍庫を下ろし終わった女性軍に対し1人納戸に取り残された私は、あれだけ偉そうに言っておいたのに冷凍庫の角に左足の親指を挟んでしまい、大声が出そうになるのをグッと我慢しました。

 

 「いっつっ。よーし。ふぅ。あとは大丈夫や。お父さんがセッティングするわ。ㇵッㇵッ。」

 

 はーい。おつかれちゃーん。

 

 ん。

 

 リビングの方からかすかに聞こえた女性二人の声は、納戸から出られなくなった情けない姿勢になっている私の姿を置いて暫くして聞こえなくなり、その後背中を可動棚の角にぶつけてもがき苦しむ父の姿があったとはツユとも知らず、自分たちの用事をしに各部屋に戻っていました。

 

 リビングでは泣きそうだった顔が印象的な息子が、スプラトゥーン(テレビゲーム)に夢中になっていました。

 

 達成感に似た孤独感を感じながらセッティングを終えてお風呂に向かった私は、あるはずの傷跡が無くなっている自分の背中を鏡で何度も確認しながら、一仕事後の汗を気持ちよく流しました。

 

 部屋着に着替えリビングに戻ると、皆は録画した「ドリフの大爆笑」を見て大笑いしていました。

 

 娘と妻に「(冷凍庫)運ぶの大丈夫だったか」と確認すると、優しい二人は

 

 「うん何も。全然余裕だった。」「別に。」

 

 と私を心配させまいと声をそろえて気遣ってくれました。

 

 そんな二人の気遣いを感じ私はそれ以上冷凍庫の事は話題にすまいと心に誓い、ふと昔を懐かしみました。

 

 オカン(母親)やったら「ヒロミ凄い」言うてくれてたな。

 

 ・・・

 

 ホンマ色々残念なお父さんでゴメンねみんな。これからも宜しくです。

 

 追記 皆様ここからですね本当の戦いは。大切な家族のため未来ある子供たちのために協力して必ず早期の完全勝利を目指しましょうね。

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