綿棒スペクタクル

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2017.04.22

 やましなす、そしてやましなせ皆様。

 

 皆様は、ご自身の旦那、もしくは父親について日頃どのような存在だと認識していらっしゃいますでしょうか。

 

 男の懐は、決して図り切る事が出来ないドラえもんの四次元ポケット。

 

 例えば綿棒と男の関係がそうであるように。

 

 お風呂から上がってきたご主人(又は父親)が綿棒で耳を掃除している、そんな風景はどこの家庭でも見る事の出来る光景だと思います。

 

 しかしその光景の裏に色々なドラマがある事をご存知でしょうか。

 

 父もしくは夫には「家族には見られない影の努力」と言う行動が常日頃から多くあります。

 

 今回はそんな男の影の努力を少しでも多くの女性陣の方に認識していただきたく思い、私のケースで一例としてご紹介したいと思います。

 

 斉藤家は妻と子供達の寝る時間は毎晩21時半前後です。

 

 私が家に帰る時間がいつも大体8時頃になるのですが、その時間には既に私以外の家族はお風呂と御飯を終えて歯を磨き始めています。

 

 私が家に着き晩ご飯を食べてから晩酌をしていると皆「お休みなさい」と言う声と共にリビングを出ていきます。

 

 なんとなく寂しいです。

 

 しかし毎週金曜日の夜だけは、娘(小5)が「明日は学校がお休み」と言う事で少しだけ夜更かしをしてくれます。

 

 ですので金曜の夜は私にとって少し嬉しい夜になっています。

 

 ところが最近寝る前の洗濯が私の日課になり、あまり遅くまでのんびりしていると洗濯を干し終わるのに0時を回ってしまうので、娘が起きてくれている時間にお風呂に入るようになりました。

 

 心優しい娘は自分が寝る前に私がお風呂に入っている際、必ず「お父さん先に寝るね。お休み」と挨拶をしにお風呂の扉を開けに来てくれました。

 

 先週の金曜日、いつものように娘と少し遊んでからお風呂に入ると、先に入った息子が目一杯暴れたのか、湯船の水位がいつもより下がっていました。

 

 それを見て、とあるアイデアが浮かびました。

 

 お休みを言いに来た娘がお風呂を覗いた際、驚かせて笑かしてやろう。

 

 「お父さんお休みってウッワ、お父さんおらへんやんどこいったん」。

 

 簡単に説明すると、お風呂の蓋を占めて隠れん坊をする、と言うどこの家庭の父親でも行ってる些細な悪戯です。

 

 「なんや隠れてたんやん。お父さんやっぱメッチャおもろいなうふふ。」

 

 私の頭の中で描かれる完璧なシナリオ。

 

 と言う事ですぐに挨拶に来てしまうといけないので、久しぶりにコンテスト並みのスピードで頭と体を洗い入浴しました。

 

 肩まで湯船に浸かった後、そのままズズズっと体をずらして顔だけをデスマスクのようにお湯から浮かばせて、ウキウキでお風呂の蓋をその上に覆いかぶさりセット完了。

 

 お湯の中に浸かった耳で、ガスが流れる音や微かに響く隣の部屋の生活音を聞きながら、もう少しこの事態を楽しみたくなりました。

 

 娘が洗面所に入ってきたのを音で即座に確認して、お風呂の扉を開けるまでの数秒間をもドキドキしたい。

 

 何とか片耳だけでもお風呂の外に出せないかと身体を左にひねってみました。

 

 右耳がお湯の外に出て、近くの音がコーッとよく聞こえるようになりました。

 

 しかしここで失敗に気付きます。

 

 扉の方向の音を聞きやすく右耳を出した事で、顔が壁の方を向いていてしまっていました。これでは娘がお風呂の蓋を取ったときのビックリした顔を見れないでは無いか。

 

 と言う事で物音を立てないようにゆっくりと体を逆の方向にひねって左耳を出してみました。

 

 結果、良く聞こえてくるであろう周りの音ではなく、なんだか左耳の奥底でゴロゴロという音が聞こえてきました。

 

 水侵入 in 耳。

 

 扉とは逆の方に向けられた私のゴロゴロでは、生活音どころかガチャッさえも聞こえなくなる。

 

 と言う事で止む無しに再び元の右耳を出すために体を傾けなおしました。

 

 もうお分かりですよね。

 

 そうする事で両耳がバランスよくゴロゴロなる事なんて誰でもわかる事。

 

 愚かな私は両耳がゴロゴロした状態を耐え忍びながら「まだいける」「いやもうヤバイ」という葛藤と戦う事になりました。

 

 許される事なら今すぐ一度開放されたい。片足立ちで頭傾けてコンコン叩きたい。

 

 しかしそれでガチャッなんて展開になったら、すべてが水の泡と化す可能性も否めない。

 

 全ては娘の笑顔のために。

 

 アサヒスーパードライのキャッチフレーズに似た私の愛情が、ゴロゴロと真正面から向き合う事を私に決心させてくれました。

 

 そんなこんなしているうちに気が付くと20分程が経過。

 

 何となく息苦しくなってきました。

 

 頭も逆上せ始めてきました。

 

 限界を感じました。

 

 しーちゃん(娘)ごめんなさい。

 

 ゴロゴロに負けて湯船を出ました。

 

 湯船から出て真っ先に片足立ちでトントンする私。

 

 ボーッとした頭のままとりあえずバスタオルで簡単に水気を拭った後、リビングへの扉を開けて断腸の思いで娘の安否を確認してみました。

 

 リビングには既に娘の姿は有りませんでした。

 

 洗面所で寝るための身支度を済ませてリビングに戻り、テーブルの上に目をやると一枚の娘からの手紙が書置きされているのに気が付きました。

 

 「お父さんお休み。お風呂長かったね。早く寝ないと明日お仕事頑張れないよ。」

 

 私の心を温かくさせるはずの文面に、少し穴を開けられたのを感じてしまいました。

 

 そしてその後、ティッシュボックスの下の引き出しから探し出した綿棒を使って耳を掃除しながら、洗濯が終わるのを待ちつつ残っていた焼酎を飲み干しました。

 

 翌朝。リビングでは昨晩の出来事など何も知らない家族たちが起床して朝の挨拶を交わしていました。

 

 「お父さんおはよう。昨日お風呂ゆっくり入れたやろ。ウチの手紙みてくれた。」

 

 「お父さんおはよう。アオクンな。昨日カレー二杯お替りしてん。」

 

 いつもと同じ変わらない時間が流れていました。

 

 そんな中、妻があるモノを発見して声をあげました。

 

 「あぁ。誰これ。テーブルの上の綿棒。もう。誰か知らないけど使ったらキチンとゴミ箱に捨ててくださぁい。」

 

 何をコノ。

 

 人の気も知らないで。というか使ったの誰か分かってるくせに。

 

 横目で私をチラッと見ながら綿棒を即座にゴミ箱に捨てる妻を見て、昨日の夜の一連の壮大な物語の流れを言い訳しようとする私がいましたが、彼女にはきっと伝わらないと思い踏みとどまりました。

 

 一所懸命だと知恵が出る、中途半端だと愚痴が出る、いい加減だと言い訳ばかり。

 

 私は妻に犯人が誰かを知っている事も言わず、ズズッとコーヒーをすすりました。

 

 いつかきっと妻もテーブルの上に置かれた捨てられていない綿棒を見ただけで「ああ。昨日ヒロミ頑張ってたんだな。」そう感じ取ってくれる日が来る事を信じながらズズゥとコーヒーをすすりました。

 

 いつもより苦い味がしたコーヒーは、私の心に「そんな事で挫けるな」と精一杯香りで励まし、私にそれに答えられるよう成長する事の大切さを教えてくれました。

 

 このブログを見ている皆様にお願いしたい事があります。

 

 トイレの便器の便座が上に開けられっぱなしになっていたり、玄関の靴が揃っていなかったり、電動シェーバーの棚にコマかい剃り後のヒゲ屑が落ちていたり。

 

 ご主人やお父さんが犯人であろう「主婦をイラっとさせるに十分に値する出来事」が、日常には数多く存在すると思います。

 

 でもそんな時どうか海のように深い心で、その裏にある物語を感じ取ってあげてください。

 

 ひょっとしたらそれらも家族を守るために「その犯人」が身を挺して行った勇気ある行動の結果の一つかもしれません。

 

 どうかよろしくお願いいたします。

 

 因みに「海」と言う漢字の中には「母」と言う文字が入っています。

 

 昨晩夢の中でまたもや世界を大きな愛で救い枕を涙で濡らしてしまった男斉藤でした。

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