祭りマイスター

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2015.10.29

 祭りマメ知識その1「おいなー よーさー」

 

 「おいなーよーさー」とは

 山科の祭りで神輿を担ぐ際に掛けられる掛け声で主に曲がり角を回るときや進行方向が変わる際に用いられる。

 「おいなー」=「気を付けろ」、そして「よーさー」が合いの手「了解」と言う意味である。

 

 

 お久しぶりですお元気でいらっしゃいますでしょうか。ここ2週間程腰痛が酷くなって営業に支障が出る位でブログを書く気になれなかった老いを感じ始めた男斉藤です。

 

 かなり時間が経ってしまったのですが、要約少し時間が出来たので10月の3週に行われた「山科祭り」の神輿の事を書きたいと思います。

 

 今回はお祭りの一部分をピックアップ。

 

 ですのでお祭りについての詳しい内容は、1&2年前のブログにて報告させて頂きましたので省略させて頂きますが、詳しく知りたい方はコチラをクリックして見て下さい。

 

 朝4時起床。その後神輿会会長の奥様の計らいでお酒と豚汁を用意して頂けていたので同級生たちが集まっている別宅に集合しました。

 

 

 暫くゆっくりしてから神社の境内で受付を済ませに移動するともう出発間際の賑わいになっていました。

 

 

 今年は昨年とは違い、かなりの人数が参加されている様子でその中でも若い担ぎ手さん、肌のみずみずしさからにして恐らく高校生位の若い方達の姿が多く見られました。

 

 例によって身長の順番で前から順に神輿を担ぐので、今年は神輿の右側3~4番目の位置につかせて頂きました。

 

、その後「宮出の儀式」が始まって、早速神輿を担いで神社を後にします。

 

 神輿が出発してから3分程で自宅の側を通るので、取り敢えず息子の姿が遠くに見えなくなるまでは先発隊で担がせて頂きました。

 

 例年ならこの辺りで神輿会のメンバーから「はい皆ドンドン(担ぐの)代わってあげてや」と声が掛かり交代が入るのですが何故か私の所にだけ誰も交代に来てくれません。

 

 早々に肩が辛くなってきたので「なにやっとんのや」と暫く他の人達の動向を見ていると、どうやら神輿会のメンバーの主要人物達(同級生)は殆どが私のいる右側ではなく左側に固まっている事が判明。

 

 と言う事でそれ以外の身長の低い連中が私の周りにいる事も判明しました。

 

 しかも「私だけ代わりが来ない」と思っていたのですが、私から見て前列にいる人たち、良く見ると冒頭でお伝えした初参加っぽい学生さん達が集まっていて、友達同士しきりに代わり合いをしています。

 

 つまり声を掛けやすい知り合い同士で助け合っていて、あまりよく知らない人はほっとこなって感じになっていました。

 

 と言う事でなかなか交代されずに開始10分で早くも肩と首がもげそうになりました。

 

 それからというもの、最初の休憩を挟んでからはやや孤立する事への寂しさが芽生えてしまい例年のような積極性を失ってしまった私。

 

 そんな私に救世主が現れます。

 

 皆様はこの「御神輿(おみこし)」というイベントですが、実は地域の住民達(氏子)だけで担がれている訳では無いのをご存知でしょうか。

 

 私も詳しくは知らないのですが京都の各地で色々な御神輿があるそうなのですが、そう言うときに必ず神輿の手助けをしてくれる祭りのプロたちが存在するのです。

 

 つまり神輿を担ぎ慣れたアメリカ大統領も一目置くオブザ神輿バイザ神輿フォーザ神輿なエキスパート集団。

 

 神輿の棒を担ぎたいのに「又代わられへんかったら明日からの仕事が辛くなる」という思いでトボトボと歩いていた私にとある「すくいの神の声」が聞こえてきました。

 

 「おーい。胴元(どうもと)誰もおらんから入ってやぁ。」

 

 声の方を調べてみると左右の担ぎ棒の真ん中の神輿の胴体の真下の辺りから声の主である人物を確認。

 

 なんとなく中に入って胴元と呼ばれるその場所を手伝いに行きました。

 

 胴元付近には他の担ぎ手達とは明らかに身体から発するオーラが違う人物が二人いました。

 

 一人は丸坊主に近い短髪。正月に伏見稲荷神社の屋台で焼きそばを売っていて「イカ多目にいれといたるわ」とか言いだしそうな、ぽっちゃりはしているけど何故かかっこよく見える色黒の神輿プロ。彼の事は以下「ダン吉さん」と呼ぶことにします。

 

 そしてもう一人は、対照的なくらい肌が白く細見体型。頭髪は細毛でポマードをキレイに塗って矢沢永吉のようなリーゼント風にばっちり固めたチョビ髭と鷲鼻で瞳の色が青かったりしたらフランスかスペイン人に見える位のこれまたカッコいい神輿プロ「ホセさん」(勝手に名付け)。

 

 二人は神輿の真下で二人だけでその重い本体を身体を「大」の字にして支えながら光る汗を流していました。

 

 ダン吉さんは胴元に入ってきた居場所の無い私に対して「おっやっと来たか胴前足りてへんから頑張ってや」と快く笑顔で言ってくれました。

 

 取り敢えず何をすればいいのか分から無かったのですが、見ているとホセさんが肩を神輿から離して余裕そうに動いているのを発見。

 

 聞くと「胴元はそれ程踏ん張らなくても大丈夫」との事。試しに力を抜いてみた所、なるほどこりゃ楽チン本当に踏ん張らなくても全く大丈夫やん。

 

 それから担ぎながらぺちゃくちゃとしゃべる(話す)余裕まで出てきた私にホセさんが、この場所「胴元」の面白さを熱心に教えてくれました。

 

 ホセメンドーサさん(以下ホ)「あんな。神輿では胴元が一番おもろいんやで。」

 

 私「そうなんですか。ここなんか力抜いても全然大丈夫ですやん。」

 

 ホ「胴元はな。神輿をコントロールできる場所。つまりこの祭りを思い通りに動かせる花形みたいな場所なんやで。」

 

 私「どうやってコントロールするんですか。」

 

 ホ「ええか見ててみ。こうやってな、神輿の進むスピードが速いなぁって思ったら両足を広げてこう、踏ん張る。すると・・・・ほら。」

 

 私「あっ動き止まりましたやん。」

 

 ホ「せやろ。そんでな、もっと進ませたれって思ったら後ろに突っ張る・・・ふんっ。」

 

 私「おぉ凄いですね。スピードが上がりましたやん。」

 

 ホ「やろ。どないや。これが胴元の魅力、祭りマイスターの魅力やわ・・・ふんっ。」

 

 何この人めっちゃかっこええ。

 

 私「いっつも各地の神輿でこうやって胴元とか担当されるんですか。」

 

 ホ「せやな。ここが一番楽しいねん。三之宮の連中も頑張りよるけど縁の下の力持ちなココが重要なんわ変わらへん。自分(私)もやってたら分かるで。」

 

 ホセさんはそう言ってとても気さくに色々話をしてくれました。

 

 それからダン吉さんとホセさんに各地の神輿の違いや、自分たちの情熱、そして家族のこと等を聞いて神輿の真髄に少し触れる事が出来た気になりました。

 

 胴元は今回の私にとってとても居心地の良い所となり、御神輿が台車から担ぎ出されるたびに私の定位置。代わってくれない学生たちとは無縁の安住の地となって行きました。

 

 そしてしばらくして午前での最初の見せ場である中央公園の山科団地に到着します。

 

 毎年、ここ2棟と3棟の間でパフォーマンスを見せるのですが、こういった見せる場所が胴元(祭りマイスター)の真価が一番問われる場所となるのです。

 

 ダン吉さん(以下ダ)「よっしゃ気合入れてコントロールするで。」

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 しばらくして神輿会長(チバチャン)の声がメガホンで響き渡り、ねりが始まります。
                  ・
 今までの巡行ではかなり楽が出来ていたのですが、ここに来てその大変さが右肩と全身に圧し掛かって来ます。
                  ・
 こ、これは辛い・・・
                  ・
 神輿の両方の棒の付近では「これでもか」と言う勢いで担ぎ手達が上下に揺さぶりをかけているので、ちょっとでも気を許すと体が引っ張られていき神輿が倒れそうになります。
                  ・
 勿論、この胴元だけではなく神輿の先端ではその動きを制止しようと手綱を引っ張る係の人も頑張っているのですがかなりキツイ。
                  ・
 私ともう一人の胴元担当の一般の担ぎ手(山田太郎議員似)、そしてホセさん、ダン吉さんと協力して地面を睨み付けて力の限り神輿をコントロールしていました。
                  ・
 今までよりおもろいけど大変過ぎやろこれ。
                  ・

 しかし確実に4人の団結は固いモノになって行きました。

                  ・

 これも神輿の楽しみ方の一つやな、と心から思いました。

                  ・

 私「なんかココええですね。おもろい。」

                  ・

 ダ「せやろ。まだまだこれからやし頑張ってや。」

                  ・

 そしてその後、ホセダンコンビとの親睦を深めあう会話が続き、いよいよ渋谷海道の一番の見せどころ「六所神社の神輿とのかち合い場所」に到着します。

 

 この場所では三之宮神社と六所神社の神輿が「いかに派手に担げるか」を争う様な形になり、毎年一番の見どころとなるのですが、その分神輿の動きもかなり活発になり狭い場所で右に左に前後ろ、と観客の方に寄って行ったり倒れそうになったりして、コントロールがとても重要になります。

                  ・
 この頃になると酔いがいい気分に回り始め、離れた場所で休憩していた私でしたが「そろそろ担ぐ」と言う雰囲気で我に返ります。
                  ・
 取り敢えず「チーム胴元」の一員として苦労を分かち合わなければいけない気がして慌てて定位置と化した胴元に戻る私。
                  ・
 右肩を入れてもう一人の山田太郎と顔を合わせて目と目で「又宜しくぅ」という会話を交わした後、ホセさんとダン吉さんに挨拶をするために後ろを振り返りました。
                  ・
 あれホセさんいない。
                  ・
 ダン吉さんもおらんぞ。
                  ・
 何処に行ったんだろうと辺りを探していたのですが、御構い無しで神輿はついに動き始め、後ろなど振り返ってる暇が無くなってしまいました。
                  ・
 教えて貰ったように頑張って足を踏ん張り神輿のバランスを作る私と山田太郎氏。
                  ・
 やはりキツイ。あの二人いないとハンソロ、チューバッカのいないミレニアムファルコン号状態。このままだとトラクタービームに引っかかる。
                  ・
 体の気は神輿に向けつつ彼らの姿を探し続けます。
                  ・
 ホセさん、ダン吉さん何処行ってん。太郎と俺じゃ長く持たん。
                  ・
 この時私の頭の中では、私と太郎が敵のシールド装置を味方が破壊してくれるのを信じ続け、敵の砲撃に耐え忍んでいるXウイングのパイロットの様なはるかかなたの銀河系戦争映画の一部分が展開されていました。
                  ・
 肩と足の裏に走る激痛、太ももとひざに掛かる重み。ハリソンフォードもといホセさん早く。
                  ・
 そして突然、担いでいた御神輿が今まで以上に激しく上下に揺れ動きだしました。泣きっ面に蜂状態な私と太郎氏。
                  ・
 「誰やねんコラ。そんな強く振り回すなや」と殺気立てて顔を上げた先に信じられないものが見えました。
                  ・
 私の担ぐ右斜め先端付近。そこにはステップを軽快に踏みながら神輿をゆするホセさんがいました。
                  ・
 顔は見えませんでしたが、あのリーゼント風の頭は間違いない。
                  ・
 チーム胴元代表。
                  ・
 やや信じられない状況でしたが、そこはマイスターホセさんの事。のっぴきならない理由で前を手伝ってるに違いない。
                  ・
 残された私と太郎でなんとかしのいで見せます。
                  ・
 そう思い、言葉すら交わせない状況の中、太郎と意思疎通しあって何とかパフォーマンスを乗りこしました。
                  ・
 終わった。
                  ・
 そしてヘトヘトになって神輿の胴から脱出できた私の前にリーゼント頭のホセさんが汗を拭いながら現れました。
                  ・
 「代表どこいってたんですか。」
                  ・
 取り敢えず私と太郎とで乗り越えられた事を報告しようとパフォーマンス中の所在について伺ったところ、「おお。お疲れさんです。」と言いつつとても満足げな顔のホセさんの口から続けざま次のような言葉が飛び出しました。
                  ・
 ホ「ちょっと花(先)棒(神輿の先端の棒の部分)かつぎに行ってたわ。」
                  ・
 私「それは見えてました。と言うかそんな大変やったんですか前の方。」
                  ・
 ホ「いや。ちょっと楽しみに行ってたんや。」
                  ・
 え何。楽しみって。
                  ・
 ホ「楽しいなハナ(先棒)は。神輿はやっぱりハナが壱番や。」
                  ・
 ん。
                  ・
 なんか私耳が悪くなったのか。
                  ・
 「胴元はな。花形みたいな場所なんやで。」
 「胴元が神輿では一番おもろいんやで」
 「胴元は踏ん張らなくても大丈夫」
 「これが胴元の魅力、祭りマイスターの魅力やわ」
                  ・
 なんじゃこの名言。 
                  ・
 その後、信じていたものに裏切られて勝手に傷心していた私は、次の六所神社の神輿をハイジャックせんという勢いで我先に担ぎに行って、これでもかと言うくらい力の限り上下に振り回しまくりました。
                  ・
 それを見ていた同級生に「おおヒロミくん、こっちにもメッチャ来てるやん。勇ましいな。」なんて褒められましたが、そんな美談で担いでたんちゃうんえ。
                  ・
 バカヤローって担いでたんよ。
                  ・
 それからという物、事あるごとにメッチャ楽しそうにぴょんぴょん飛び跳ねているホセメンドーサの姿が脳裏を過ぎり、何と言うかこう心の拠り所を無くしてしまった私。
                  ・
 その事実を知らないで胴元で変わらず頑張り続けている太郎。
                  ・
 アンタええなぁ幸せそうで。
                  ・
 同じ苦労を共にした戦友太郎。ホンマは前がおもろいんやでって伝えたかった。
                  ・
 そしてそれ以来、午後からの巡行で言うまでもなく胴元に入る回数が激減しました。
                  ・
 余談ですが、午後のお昼ご飯の後から結構な人が酔っぱらって疲れてくるので自ら担ぐ姿勢の人が少なくなります。
                  ・
 なので節々が痛くなっていた私にはちょうど良かったかもしれません。
                  ・
 ホセさんの姿を見るのも、なんか昔の恋人に合うようで辛い。
                ・
 こうして今年の私の傷心旅行は無事終了して行きました。
                  ・
 しかし私の神輿人生も未だ始まったばかりです。
                  ・
 これも色々な事を経験して色々な見方が出来るように山科の神様に与えて貰った有難い経験の一つ。
                  ・
 お蔭で昨年までは経験できなかった太ももとふくらはぎが超筋肉痛になれました。
                  ・
 そして腰痛とこれから如何にして付き合っていくのかを考えて行かないといけない事にも気づかせてもらえました。
                  ・
 物事をあまり深く知ろうとしない方が幸せな事にも。
                  ・
 ホセさん、ダンちゃん有難う御座いました。
                  ・
 来年からはもう少し頭を使った位置取りを心がけて行きたいと思います。
                  ・
 先ずは腰痛を治してから、と言う事で。
                  ・
 あ。太郎もありがとうな。
                  ・
 祭りマメ知識その2「花棒(はなぼう)」
                  ・
 花棒(先棒、華棒)とは
 神輿の胴を前後に貫通している担ぎ棒のいちばん先の端をいう。
 両脇の「りん木」の先端は「はなぼう」ではないが、二番目人気のポジション。
 掛け声をかけるにも、前へ進むにも一番目立つ位置。
 
とりあえず、どの神輿でも一度は担いでみたい場所。
 競争率も激しいが、ここを担げば征服感が味わえる
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