待ってくれえ

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2013.10.01

 やましなす。最近ちょっとスランプ気味の斉藤です。

 

 皆様はお変わりなくお元気でいらっしゃいますでしょうか。

 

 今回は少し気味の悪い体験談なので、そういうのがお嫌いな方は読むのをお控えください。

 

 先日、友人の結婚式の打ち合わせの為、新風館に行ってきたのですが、その帰りに烏丸御池から東西線に乗って東野まで帰ってきました。

 

 利用された事のある方はお分かりかと思いますが、東西線は京都にある地下鉄の中でもかなり下まで掘っている線の一つらしく、階段で上り下りするだけでも結構大変だったりします。

 

 御陵駅なんか階段最中のターン(曲がり角)が6回くらい深くまで潜らないといけません。お年寄りが多いのにふざけた話です。

 

 なんでも一昨年前に、御陵駅の出口1の昇り階段途中で、力尽き行き倒れになっていたお婆さんが手記を残していて、その手記の中に「こんな長い階段に挑んだ親不孝な私を許してくださいお義母さん」と書いてあったなんて話は無いです。

 

 兎に角、終電近い夜の11時30分くらいに東野駅に着いて私の家の方角である3番出口に向かったのですが、階段で上がるのが面倒になって、行ったばかりで40秒は待たないといけないエレベーターを待ってからこの若さで乗らせて頂きました。

 

 私の前にはすでにエレベーターを待っている疲れきった顔の初老の男性(通称おっくん)が居たので2番手で乗り込んだわけですが、そうすると必然的に扉手前の所謂(いわゆる)エレベーターガールのポジションに行かなくても良くなるわけです。

 

 ちなみにその初老の方は私の兄の友達の「おっくん」にそっくりでした。

 

 そして大体2番手乗り込みだと、扉から最も離れた所、後ろ側の壁に背中を付ける位置まで下がらないといけなくなります。

 

 私の後にも通勤帰りなどの方たちが5人乗り込んできました。

 

 そしてしばらくして辺りが静寂に包まれ、エレベータージェントルメンのポジションのおっくんは周りをゆっくりと確認してから「閉」のボタンを静かに押します。

 

 「扉が閉まります。」

 

 どうでも良い事ですが東野駅のエレベーターの場合、このアナウンスが流れてから扉が閉まり出すまでに約3秒の「間」が出来ます。

 

 そして扉が4割程閉まった辺りで誰かが走ってくる足音が薄ら聞こえました。

 

 エレベーター内の奥の右側に寄りかかっていた私は、向かい左奥から駆け足で走ってくる緑のスカーフを矢沢永吉のタオルの様に肩に掛けた肌の白いおばさんが見えました。

 

 待ってくれぇ。

 

 気のせいか私の眼にはおばさんは走っているはずなのに、何故かスゥっと流れるようにこちらに近づいてくる様に見えました。顔には困っているような怒っているような強い意志が感じられました。

 

 待ってくれぇ。

 

 普段の私なら、とっさに「あ、人が来ますよ」などと声に出したりするのですが、何故かその時、静寂の中で走ってくるおばさんの形相にただならぬ恐怖を本能で感じました。「この人を入れてはいけない」と。

 

 待ってくれぇ。

 

 しかしおっくんは疲れている為(勝手な想像)アンテナを張っていなかったのでしょう。おばさんに気付くのがやや遅くなってしまいました。

 

 「あ」

 

 おそらく悪い人ではなかったのでしょう。アンテナを慌てて立てたおっくんは「開」のボタンを急に連打しました。何度も何度も連打しました。

 

 待ってくれぇ。

 

 近づいてきたおばさんの顔はガラス越しにはっきり山姥(やまんば)の様な形相に見えました。山姥見た事無いですが。

 

 連打の頑張りむなしく扉は閉まり、おっくんは最後に指ではなく手のひらで軽く「開」ボタンを押しました。エレベーターは動き始めました。

 

 もう、現実とは思えない位のシーン。ゾンビ映画でも見ているかのようでした。

 

 待たなかった。

 

 ガラスの向こう側には、恨めしそうに中をにらんでいたおばさんの姿が。

 

 あれ。

 

 おばさんの姿があったはずだったのですが、一瞬にしてその姿が見えなくなってました。

 

 待たなかった。

 

 まさか幽霊じゃないよな、と何となく不気味に思っていた私でしたが、ボタンに手が届く位置にいなかったので薄情な話、まあいいか。と軽く思ってしまいました。

 

 その後、エレベーターの中はなんとなく重い雰囲気に包まれて、誰も声を発しませんでした。

 

 あ。他人だから当たり前ですね。

 

 そして程無くエレベータは地上に着き、アナウンスの声と共に扉が開きました。

 

 「地上階です。扉が開・・・」

 

 さっきのなんだったんだろう、などと考えながら降りる為に顔を上げたその時。

 

 私の目に、あるものの姿が飛び込んできました。

 

 そこには恐ろしい形相のあの山姥が。

 

 前進の毛穴が開くのが分かりました。

 

 えウソやろ。さっきまで下にいたやん。

 

 本能で「扉が開いたら何か嫌な事が起こる」と感じました。まずい。

 

 「開くな開くな。」心の中で念じました。しかし無情にも扉は開いて行きます。

 

 扉が開き切った先。そこには間違いなく緑のスカーフをかけた山姥が青白い顔で立っていました。

 

 息を切らしてました。

 

 殺される。

 

 

 

 「なんで待ってくれへんの。」

 

 始めに出ようとして扉に近づいていたおっくんではない別の若い男性が捕まってました。

 

 「え。え。」

 

 あいつが最初に殺される。

 

 顔は見えませんでしたが、若い男性は腕を捕まれています。

 

 「何で待ってくれへんにゃ。」

 

 「いや、この人ボタン押してたし、俺関係ないっすよ。」

 

 「何言うてんの、ちょっと横から押してくれたら入れたやないの。」

 

 緑のスカーフの山姥に見えた普通のおばさんは、多分エレベーターが動いてからダッシュで階段を上がってきた様子でした。

 

 おっくんは横からそそくさと外に出てました。

 

 「え。俺ちゃう言うてますやん。」

 

 若い男性むっちゃ困ってました。

 

 おっくんに続いて他の人たちが我先に静かに降りて行きます。

 

 私も、恐らく最後に降りるととばっちりが来るかもしれない、となんとかブービーで降りようと体を入れました。

 

 脱出成功。

 

 おばさんはよっぽどムカついたのか暇なのか、その後も若い人に色々文句を言ってました。

 

 振り返ると魂を持って行かれそうで、いや。間違いなく関わりあいになってしまいそうでポケットからスマートフォンを取り出して意味なくスケジュール表を開きながら歩く私。

 

 頭の中では何故か、映画「ジョーズ」の最後のシーンで船が沈没しそうになり傾いた所、船長がデッキの傾斜で滑って行って「頼む俺の手を摑まえてくれ」と叫びながら人食いサメに食われるシーンが浮かびました。

 

 そして50m程歩いた所でおばさんの声も若者の気配もなくなっていきました。

 

 

 

 その後、その二人がどうなったのかは恐ろしくて考えたくない出来事でした。

 

 ちなみに本文途中の大文字&太文字の待ってくれえと言うセリフはおばさんではなく私が勝手に思っていただけのセリフです。

 

 きっと山科の神様も私の気持ちを分かってくれたことでしょう。

 

 この薄情者め。

 

 

 しかし山科変わった人が多いですわホンマ。

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